なぜアンティーク家具に「角」が?ヨーロッパの狩猟文化とホーン家具の歴史
アンティーク家具や古いヨーロッパのインテリアを見ていると、ときどき少し変わった素材に出会います。
それが、
動物の「角」
です。
鹿の角を組み合わせたチェアやテーブル、壁に飾られた立派な角、そして角そのものを利用したシャンデリア。
初めて見ると、「どうして家具に角を使ったんだろう?」と少し不思議に感じますよね。
しかし、この「角」を使った家具や装飾品をたどっていくと、そこにはヨーロッパの狩猟文化や貴族の暮らし、19世紀のインテリアの流行まで見えてきます。
今回は、そんなヨーロッパアンティークと「角」について調べてみたので皆さんと共有したいと思います。

そもそも「角」にも種類がある?

私たちは普段まとめて「角」と呼んでいますが、実は鹿の角と牛や羊の角では構造が異なるようです。
鹿などに見られる枝分かれした角は、アントラーと呼ばれるもの。
これは骨質でできており、多くの鹿では毎年生え変わります。
一方、牛や羊、ヤギなどのホーンは、骨の芯の周囲をケラチン質の層が覆う構造になっています。
そのため、アンティークの世界で「ホーン家具」と呼ばれていても、実際には鹿の枝角を使ったアントラー家具である場合も少なくないそうです。
日本ではどちらも「角」と呼んでしまうので少しややこしいですね。
実は中世から存在した「角の照明」

Walters Art Museum, Public domain, via Wikimedia Commons
角をインテリアに使う文化は、19世紀になって突然始まったものではありません。
ヨーロッパでは中世の時代から、鹿の角を利用した照明が作られていました。
15世紀頃のドイツには、木彫の人物像と鹿の角を組み合わせたシャンデリアが残されています。
鹿の角が持つ独特の形をそのまま照明のデザインとして利用していたわけです。
自然が何年もかけて作り上げた形を、人間がデザインとして取り入れる。
現代でいう「自然素材を活かしたインテリア」にも少し通じるものがあります。
「ルスターヴァイプヒェン」という不思議なシャンデリア

Suermondt-Ludwig-Museum, Public domain, via Wikimedia Commons
この角を使った照明の中には、さらに面白いものがあります。
それがドイツ語で、
ルスターヴァイプヒェン
と呼ばれるシャンデリアです。
木彫りの女性像や人物像の後ろから鹿の角が大きく伸び、その角にロウソクを取り付けるという、とても個性的なデザイン。
特に15~16世紀頃のドイツ語圏やその周辺で作られ、人物が紋章を持っているものなども見られます。
家具というより、彫刻と照明と自然物を組み合わせた美術品のような存在です。
現代の感覚で見るとかなり奇抜ですが、暗い室内でロウソクに火が灯り、その周囲に大きな鹿角と彫刻が浮かび上がる姿を想像すると、相当な存在感だったのではないでしょうか。
そして19世紀、「角の家具」が流行する

鹿角を使った家具が特に注目されるようになるのが、19世紀です。
ドイツやオーストリアを中心に、貴族の狩猟用の館やカントリーハウスには「ハンティングルーム」と呼ばれる空間が作られました。
そこには狩猟で得た鹿の角や動物の剥製などが飾られ、やがて角そのものを使った家具まで作られるようになります。
椅子の脚や背もたれを鹿角で組んだり、テーブルの脚に利用したり、キャビネットへ角を装飾として取り付けたり。
まさに部屋全体で「狩猟」という世界観を作っていたのです。
19世紀半ば頃にはこうした鹿角家具がアルプス地域の狩猟館などに広がり、専門的に製作する家具業者まで登場したそうです。
「狩った証」を家具にする

フルボカー・ナド・ヴルタヴォウ近くのハンティング・ロッジ・オラダにある枝角の家具のある宴会ホール
Jitka Erbenová (cheva), CC BY-SA 3.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0, via Wikimedia Commons
ここで少し重要なのが、当時のヨーロッパにおける狩猟の意味です。
現在の私たちが想像する狩りとは少し異なり、長い間、狩猟は王侯貴族など限られた階級と深く結びついていました。
立派な鹿を仕留め、その角を屋敷に飾ることは、単なるインテリアではありません。
そこには、
狩猟の成果
そして場合によっては、
その人の地位や生活様式
を示す意味もありました。
壁に角を飾るだけでなく、その角から椅子やテーブルまで作ってしまうのですから、当時の人々の狩猟への思い入れが伝わってきます。
19世紀になると狩猟は裕福な市民階級にも広がり、貴族のカントリーハウスを思わせる「狩猟の部屋」が富裕層の住宅にも取り入れられていきました。
1851年、ロンドン万国博覧会にも登場

J. McNeven, Public domain, via Wikimedia Commons
角を使った家具が広く知られるきっかけのひとつとなったのが、1851年のロンドン万国博覧会だそうです。
この時代は、各国の新しい技術や工芸品、家具などが巨大な展示会へ集められた時代。
その中には鹿角を使った椅子や家具も登場し、非常に珍しい家具として注目を集めました。
こうした国際博覧会を通してデザインが各国へ伝わり、鹿角家具は貴族だけではなく、個性的なインテリアを好む裕福な市民層にも知られていきます。
この頃になると、角を使ったチェア、ソファ、テーブル、コートラック、鏡、ランプなど、さまざまな家具や室内装飾品が作られるようになりました。
鹿角家具を作った職人たち

Carl Vasquez Pinos, CC0, via Wikimedia Commons
鹿角家具の歴史を調べていくと、いくつか興味深い名前も登場します。
オーストリア・ウィーンでは、家具製作者のヨーゼフ・ダンハウザーが19世紀初頭から鹿角家具のデザインを手掛けました。
そしてドイツ・ハンブルクでは、H.F.C.ランペンダールが鹿角家具を製作。
フランクフルトのフリードリヒ・ベーラーなども、この分野で知られる存在となりました。
普段アンティーク家具を見るときには、木の種類や彫刻、年代などに注目しがちですが、こうした少し変わった家具にも専門の職人やメーカーが存在していたことを知ると、また違った見方ができますね。
角だからこそ、同じ形は二つとない

Artfour, CC BY 3.0 https://creativecommons.org/licenses/by/3.0, via Wikimedia Commons
鹿角家具の面白いところは、通常の木製家具とはまったく違った曲線を持っていることです。
鹿の角は一本一本、
枝の伸び方も、
太さも、
曲がり方も違います。
つまり、それ自体がすでに自然によって作られた装飾なのです。
家具職人はその形を見ながら、
「この角は背もたれに」
「こちらはアーム部分に」
「この大きな角はテーブルの脚に」
と組み合わせていきます。
木材を削って同じ部品を作るのとは違い、素材の形に合わせて家具を考えていく。
そこには、通常の家具製作とはまた違った職人の感覚が必要だったことでしょう。
「ブラックフォレスト」と角の家具

鹿や熊などの動物をモチーフにした木彫家具や角を使った家具を見ていると、アンティーク市場では「ブラックフォレスト」という言葉を目にすることがあります。
ブラックフォレストとはドイツ南西部のシュヴァルツヴァルト(黒い森)のこと。
ただし、ここは少し注意が必要です。
市場では山岳地方風の動物彫刻や狩猟家具を幅広く「ブラックフォレスト」と表現することがありますが、角を使った家具がすべてブラックフォレスト地方で作られたわけではありません。
ドイツ各地やオーストリアなどでも数多く作られています。
そのためアンティークを見るときには、「角が付いている=ブラックフォレスト」とすぐに決めてしまわず、家具そのものの年代や構造、産地を見ていくことが大切です。
木と角は意外なほど相性が良い

鹿角家具だけを見ると、とてもワイルドな印象を持つかもしれません。
ところが実際に古い家具と一緒に置いてみると、意外なほど自然に馴染みます。
特にオーク材などの力強い木目を持った家具や、革張りのチェア、アイアン製の照明などとは好相性。
角そのものにも茶色やアイボリー、グレーなど複雑な色合いがあり、年月を重ねた木材の色とよく調和します。
たくさん取り入れれば本格的なハンティングロッジのような空間になりますが、角を使った照明や小さな装飾品を一つだけアクセントとして置くのも面白い使い方です。
少し変わった素材から見えてくる、アンティークの面白さ
ヨーロッパアンティークというと、美しい木材や繊細な彫刻、真鍮装飾などに目が向きます。
しかし、ときには鹿の角、骨、革、貝、石など、驚くような素材が使われていることがあります。
そこには単なるデザインだけではなく、その時代の暮らしや文化、価値観まで残されています。
今回ご紹介した「角」もそのひとつ。
中世には自然の形を活かした照明として使われ、19世紀には狩猟文化を象徴する家具へ。
一見すると少し奇抜なアンティークも、背景を知ってから改めて眺めると、
「なぜこんな形になったのか」
が少しずつ見えてきます。
そして、それこそがアンティークの面白いところではないでしょうか。
なかなか見かけることはありませんが、もし次にアンティークショップで鹿の角を使った家具や照明を見つけたら、ぜひ少し立ち止まって見てみてください。
その一本の角から、何百年にもわたるヨーロッパの狩猟文化やインテリアの歴史が見えてくるかもしれません。
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