静寂の中で育った家具。ヨーロッパの「修道院」とアンティークの深い関係

ヨーロッパのアンティーク家具を見ていると、ときどき宗教施設を思わせる名前やデザインに出会います。

「リフェクトリーテーブル」

「モンクスベンチ」

「チャーチチェア」

「ゴシック様式」

重厚なオーク材、長いテーブル、素朴なベンチ、尖頭アーチやトレフォイルを思わせる彫刻。

こうした家具を眺めていると、石造りの古い修道院や教会で、静かに祈りながら暮らす修道士たちの姿を想像する方も多いのではないでしょうか。

実際、中世ヨーロッパの修道院は、宗教活動だけを行う場所ではありませんでした。

そこには食堂、図書室、寝室、集会室、厨房、農場、工房、客人を迎える施設まであり、一つの小さな社会のように機能していました。例えばイギリスのある修道院では、回廊を囲んで教会、食堂、図書室、集会室、談話室、寝室などが配置され、その外側には宿泊施設、納屋、厩舎、パン工房、醸造所まで存在していたようです。

当然、その暮らしを支えるためには家具も必要です。

食事をするための長いテーブル。

何人もの人が並んで座るベンチ。

聖書や書物を読むための書見台。

衣服や布、貴重品を保管するチェスト。

今回は、ヨーロッパの「修道院」とアンティーク家具がどのように結びついているのか、その歴史をたどってみたいと思います。

修道院とは、修道士や修道女が共同生活を送りながら、祈りや労働、学びを行う宗教施設です。

英語では広い意味で「monastery」と呼ばれますが、アンティークや建築の世界では、

Abbey(アビー)
Priory(プライオリー)
Friary(フライアリー)

といった言葉もよく登場します。

それぞれ組織や運営形態には違いがありますが、いずれも礼拝の場だけではなく、人々が実際に生活するための施設を備えていました。

中世の典型的な修道院では、中心に四角い「クロイスター(回廊)」があり、その周囲に主要な建物が配置されます。

回廊から教会、食堂、寝室、集会室へアクセスできる構造になっていたり、さらに外側には病室、修道院長の住居、納屋、厩舎などが置かれているようなものもありました。

つまり修道院は、

祈る場所であると同時に、食べ、眠り、働き、学ぶ場所

だったのです。

家具を見るうえでは、この「生活の場だった」という視点がとても重要です。

ウェールズ、ティンターン修道院の西端
Martinvl, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, via Wikimedia Commons

アンティーク家具との関係で、特に重要な言葉が、

Refectory(リフェクトリー)

です。

リフェクトリーとは、修道院などに設けられた共同食堂を意味します。

修道士たちは決められた時間になると食堂へ集まり、共同で食事を取りました。

15世紀になると新しい食堂が作られ、世俗の領主の大広間を思わせるような空間へ改装されています。

この大きな食堂で必要となったのが、

長いテーブルとベンチ

でした。

ここから私たちがアンティーク家具でよく耳にする、

「リフェクトリーテーブル」

という名称につながっていきます。

溝彫りの脚と温かな木肌が魅力、引き出し付きダイニングテーブル【t314】

以前の記事でもお話しましたが、リフェクトリーテーブルとは、一般的に横長の天板を持ち、頑丈な脚やストレッチャーで支えられた大型テーブルです。

オーク材を使ったものが多く、装飾よりも堅牢さを感じさせる構造が特徴です。

多くの人々が同時に食事をするため、簡単に動いたり壊れたりしては困ります。

厚みのある天板。

太い脚。

脚同士をつなぐ横貫。

こうした構造には、大人数で日常的に使用する家具としての合理性があります。

ただし、ここで一つ注意があります。

アンティーク市場で「リフェクトリーテーブル」と呼ばれているものすべてが、実際に修道院の食堂で使われていたわけではありません。

この名称は後世になると、修道院の食堂にあったような長く頑丈なテーブルを表す「形の名称」としても使われるようになりました。
実際に当店の”リフェクトリーテーブル”の定義は、”拡張機能の無い、大型の長方形テーブル”として意味づけています。

実際に16~19世紀までに様々なリフェクトリータイプテーブルが残っています。長大なオークテーブルは、修道院ではなく大邸宅で主人、客人、使用人が食事をするために使われることもありました。

つまり、

「リフェクトリー」という起源を持つデザインが、世俗の大邸宅へも広がっていった

と考えると分かりやすいでしょう。

幅240㎝!お店にもおすすめのオークテーブル 【t236】

修道院や中世・近世の英国家具を見ていると、オーク材が頻繁に登場します。

これは英国アンティーク全体とも深く関係しています。

オークは丈夫で耐久性が高く、長い天板やベンチ、チェストなど、日常的に酷使される家具に適した木材でした。

さらに、中世の家具は現代の家具ほど種類が細分化されていません。

一台のチェストが、

収納する。

腰掛ける。

物を置く。

場合によっては移動させる。

と複数の役割を果たすこともありました。

15世紀のヨーロッパ製ベンチには、座面を持ち上げると内部が収納スペースになっている作例も残っています。

華やかな装飾を競う宮廷家具とは違い、まず必要なのは、

長く使えること。

その実用性が、現在私たちが「修道院風」「カントリー風」と感じる家具の力強い姿につながっています。

アールデコの意匠と重厚なオーク彫刻が美しい、大理石天板のミラーバックサイドボード【s77】

修道院で重要だったのは、食事だけではありません。

修道院は、中世ヨーロッパにおける学問や書物の保存にも重要な役割を果たしました。

礼拝で使う聖書や祈祷書。

修道規則。

神学書。

写本。

こうした書物を読むためには、書見台や机が必要です。

ある中世の修道院では図書室と、修道士が個別に学習するための20もの小さな書斎スペースが現在も残っています。教会には説教などで使われた書見台も残されています。

アンティークで見かける、

レクターン(書見台)

も、こうした宗教文化と深い関係を持つ家具・什器です。

大きな聖書を開いたまま置けるよう、傾斜した天板を持つものもあります。

現在では店舗のメニュースタンドやディスプレイとして使うこともできますが、本来の形を知ると、その存在感が少し違って見えてきます。

全てがオーク無垢材で作られた非常に贅沢なチャーチレクターン【cw50】

修道院や教会とアンティークを考えるうえで、もう一つ欠かせないのがチェストです。

中世ヨーロッパでは、チェストは非常に重要な家具でした。

衣類。

布。

書物。

宗教用品。

貴重品。

さまざまなものを保管でき、必要なら移動させることもできます。

特に教会では、祭服などを保管するための大型チェストも作られました。

アンティークのチェストを見て、

「どうしてこんなに頑丈なのだろう」

「なぜ大きな鉄金具が付いているのだろう」

と思うことがあります。

それは単なるデザインではなく、中に大切なものを保管し、何世代にもわたって使う家具だったという背景から生まれた形なのです。

AIによるイメージ画像

修道院や教会の家具には、ゴシック建築の意匠も多く取り入れられました。

尖頭アーチ。

トレフォイル。

クアトレフォイル。

柱を思わせる彫刻。

折り畳まれた布のようなリネンフォールド。

これらは、教会建築のデザインが小さな家具へ縮小されたようにも見えます。

特に19世紀になると、中世への関心が高まり、

ゴシック・リバイバル

が流行します。

そこで再び、中世の教会や修道院を思わせる家具が大量に作られるようになりました。

現在アンティーク市場で出会う「修道院風」の家具には、実際の中世家具だけでなく、19世紀から20世紀初頭に作られたゴシック・リバイバルやチューダー・リバイバルの家具も数多く含まれています。

むしろ私たちが日常的に出会えるものはこちらの方が多いでしょう。

英国調の重厚な佇まい。背もたれの彫刻が美しいオーク材ダイニングチェア【2230】

そして、少し面白い家具が、

モンクスベンチ

です。

一般的なモンクスベンチは、背もたれ部分を前へ倒すとテーブルになり、座面下には収納スペースを備えるという、多機能な家具です。

ベンチ。

テーブル。

収納。

一台でいくつもの役割を果たします。

しかし、

「モンクスベンチという名前だから、必ず修道士が使っていた」

と考えるのは注意が必要です。

現在モンクスベンチと呼ばれる家具には、後世に中世風の意匠で作られたものも多く存在します。

特に19世紀末から20世紀前半には、中世やチューダー時代を思わせる重厚なオーク家具が好まれ、モンクスベンチも数多く作られました。

名称が歴史的な雰囲気を伝えていても、実際の来歴が確認できない限り、

「かつて修道院で使われていた」

とは断定できません。

アンティーク家具では、この名前と来歴を分けて考えることがとても大切です。

AIによるイメージ画像

イギリスの修道院の歴史を大きく変えたのが、16世紀のヘンリー8世です。

1536年から1540年にかけて、イングランドでは修道院、修道女院などが次々と閉鎖されました。

いわゆる、

「修道院解散」

です。

1530年代に閉鎖され、土地や建物は新しい所有者へ渡りました。教会部分が破壊される一方、残された建物の一部は私邸として再利用され、かつての食堂がグレートホールとして使われました。

また建物の多くが解体され、その石材が別の邸宅建設に再利用されています。

つまり修道院解散は、単に宗教施設が閉鎖された事件ではありません。

建物。

土地。

石材。

金属。

宗教用品。

家具。

それまで修道院に集められていたさまざまなものが、新しい場所へ散っていく大きな転換点でもありました。

現在まで「修道院由来」と伝えられる品がある一方で、実際の来歴を確かめることが非常に難しい理由の一つでもあります。

ヘンリー8世の肖像画
Workshop of Hans Holbein the Younger, Public domain, via Wikimedia Commons

ここはアンティークを見るうえで重要なところです。

中世の修道院が数多く存在したからといって、当時の家具が大量にそのまま残っているわけではありません。

木製家具は、

壊れる。

燃える。

別の用途へ作り替えられる。

部材として再利用される。

時代遅れになれば処分される。

という運命をたどります。

さらにイングランドでは修道院解散によって建物や内部の品々が広く分散しました。

そのため、現在アンティークショップで見かける重厚なオーク家具の多くを、

「中世の修道院家具」

と考えることはできません。

むしろ、

修道院建築や中世家具から生まれたデザインが、後の英国家具に受け継がれている

と考える方が実態に近いでしょう。

ドームトップデザインのオークカップボード【k178】

修道院や中世の生活家具を思わせる、厚いオーク材、見える構造、長いストレッチャー、簡潔な造形。

こうした美しさは、19世紀後半にも再評価されます。

その代表が、

アーツ・アンド・クラフツ運動

です。

大量生産へ疑問を投げかけたウィリアム・モリスやフィリップ・ウェッブらは、中世の職人仕事や素朴な家具から大きな影響を受けました。

フィリップ・ウェッブによる1860年代頃のダイニングテーブルは、「リフェクトリータイプテーブル」とされています。オーク材を使い、太い脚と厚いストレッチャーを備えた構造は、中世以来の家具の力強さを近代のデザインへ取り入れた好例です。

つまり「修道院的な家具の美」は、中世で消えたわけではありません。

時代ごとに姿を変えながら、英国家具の中へ何度も戻ってきたのです。

楔留め構造が映える重厚な佇まい。力強いオークの木目を楽しむコーヒーテーブル【t320】

修道院とアンティーク家具の関係を知ると、重厚なオーク家具の見方が少し変わってきます。

長いリフェクトリーテーブル。

何人も並んで座れるベンチ。

大切なものを守る大型チェスト。

聖書を置くための書見台。

建築の意匠を小さな家具へ移したゴシック彫刻。

そこには、派手さを競う宮廷家具とは異なる美しさがあります。

必要だから作る。

丈夫に作る。

長く使う。

そして、その構造そのものを美しくする。

この考え方は、修道院家具だけに限定されるものではありませんが、中世以来のヨーロッパの生活家具を理解するうえで、とても大切な視点です。

アンティーク家具をご覧になる際に、重厚なオークのテーブルやベンチを見つけたら、

「この形は、どのような暮らしから生まれたのだろう?」

と想像してみてください。

石造りの食堂で人々が長いテーブルを囲んだ時間。

静かな図書室で書物を読んだ時間。

何度も修理されながら使われ続けた木の家具。

現在目の前にある一台が実際に修道院で使われていたとは限りません。

それでも、その形の奥には、中世から何百年にもわたって受け継がれてきたヨーロッパの暮らしと木工文化が息づいています。

アンティークとは、その遠い時間の痕跡に触れられるものなのかもしれません。

今回のお話で出てきたキーワードの商品をまとめてみました。是非ご覧ください!

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アンティーク家具・照明・シャンデリアのパルテノン

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