果樹から生まれた家具。アンティークで見かける「フルーツウッド」とは?種類・特徴・魅力を解説
アンティーク家具の商品説明を見ていると、ときどき「フルーツウッド(Fruitwood)」という素材名に出会うことがあります。
オーク、マホガニー、ウォールナットなら、どのような木なのかイメージしやすいかもしれません。
では、「フルーツウッド」とは何の木なのでしょうか。
リンゴ?
ナシ?
サクランボ?
実はその答えは、「どれもあり得る」です。
フルーツウッドとは、一つの特定の樹種を指す名称ではありません。
アンティーク家具の世界では、主にナシ、リンゴ、サクランボ、プラムなど、果実を実らせる樹木から採れる木材をまとめて「フルーツウッド」と呼ぶことがあります。
派手な杢目を持つ高級輸入材とは少し違い、身近な土地で育った果樹を利用した家具には、素朴で温かな魅力があります。
一方で、その緻密な木質を生かして、非常に精巧な家具や象嵌、黒檀を思わせる仕上げに使われることもありました。
今回は、アンティーク家具で見かける「フルーツウッド」とは何なのか。
代表的な樹種や特徴、ヨーロッパの家具との関係、そしてアンティークならではの見どころをご紹介します。

「フルーツウッド」という木は存在しない?
まず最初に知っておきたいのは、
「フルーツウッド」という名前の樹木が存在するわけではない
ということです。
アンティーク家具や美術品の世界で使われるフルーツウッドは、複数の果樹材をまとめた呼び方です。
代表的なのは、
- ペアウッド(ナシ)
- アップルウッド(リンゴ)
- チェリーウッド(サクランボ)
- プラムウッド(スモモ類)
などです。
ただし、「果実がなる木なら何でもフルーツウッド」と機械的に分類するわけではありません。
家具市場での呼び方には地域や時代による違いがあり、ウォールナットのように植物学的には実を付ける木でも、通常は独立した木材名で扱われます。
また、100年以上経過した家具では、表面が変色したり、染色や塗装が施されたりしているため、木目だけから正確な樹種を特定することが難しい場合があります。
そのためアンティーク市場では、ナシやリンゴなどの果樹材と考えられるものの、樹種を一つに断定できない家具に「fruitwood」と記載されることもあります。
実際にメトロポリタン美術館の収蔵家具にも、素材が「Applewood or pearwood」とされ、リンゴ材またはナシ材と判断されている19世紀の家具があるようです。

フルーツウッドの魅力は、きめ細かな木肌
フルーツウッドは樹種によって性質が異なるため、すべてを同じ特徴で語ることはできません。
それでも、多くの果樹材に共通して見られる魅力の一つが、比較的きめ細かな木肌です。
例えばペアウッドは木目が細かく、表面を滑らかに仕上げやすいため、家具だけでなく細かな木工品や楽器にも利用されてきました。
一方、チェリーウッドには赤みを帯びた温かな色合いがあり、使い込むことで落ち着いた飴色へと変化していきます。
果樹材の家具には、マホガニーの華やかな光沢やオークの力強い木目とは違った、柔らかく穏やかな表情があります。
それが、フルーツウッドのアンティーク家具に独特の親しみやすさを与えています。

チェリーウッド。黒檀にも化けた「サクランボの木」
フルーツウッドの中でも、アンティークの世界で特に興味深いのがチェリーウッドです。
つまり、サクランボの木です。
細かく均質な木肌を持つチェリーウッドは、家具、彫刻、小箱、楽器などさまざまな用途に使われました。
しかし、さらに面白い使われ方があります。
それが、
黒く染めて黒檀のように見せること
です。
17世紀頃のヨーロッパでは、海外交易によってエボニー(黒檀)などの珍しい木材がもたらされ、高級家具に使用されました。
しかし、輸入される黒檀は高価です。
そこでヨーロッパで手に入るチェリーウッドなどを黒く染め、黒檀を思わせる仕上げにする方法が使われました。
現在でもアンティークの商品説明で見かける、
「エボナイズド」
という言葉は、「黒檀色に仕上げた」という意味で使われます。
黒い家具を見て、
「これはエボニーだろう」
と思っても、実はその下にサクランボの木が隠れていることがあるのです。
素材を見るだけでも、当時の家具職人の工夫が垣間見えます。

Wmpearl, CC0, via Wikimedia Commons
チェリーウッドとフランスの地方家具
フルーツウッドは、特にフランスの地方家具との関係が深い素材です。
18世紀から19世紀のフランスでは、パリで作られる宮廷家具とは別に、地方の職人たちがその土地で手に入りやすい木材を使って家具を作りました。
そこで利用された木材の一つがチェリーウッドです。
現在でも18世紀から19世紀のフレンチ・プロヴィンシャル家具には、チェリーウッド製のコモードやアルモワールが数多く確認できます。例えば18世紀初頭のボルドー地方のコモードにもチェリーウッドが使われています。
フレンチ・プロヴィンシャルとは、簡単に言えば「フランスの地方で作られた家具」です。
宮廷で流行したルイ15世様式やルイ16世様式などを取り入れながら、地方の素材や職人技によって少し素朴に再解釈されました。
猫脚や曲線的な幕板、植物彫刻など、都会の流行を感じさせる意匠を持ちながら、素材には地元で採れるチェリーやその他のフルーツウッドを使う。
そこには、
「宮廷のデザイン」と「地方の暮らし」
が混ざり合った独特の魅力があります。
クリスティーズにも、18世紀末から19世紀初頭のチェリーウッド製フレンチ・プロヴィンシャル・アルモワールなどが残されています。
Daderot, Public domain, via Wikimedia Commons
イギリスでは「カントリー家具」にも使われた
フルーツウッドはフランスだけの素材ではありません。
イギリスの家具にも使われています。
特に興味深いのが、地方で作られた椅子やテーブルなど、いわゆる「カントリー家具」「ヴァナキュラー家具」と呼ばれる家具です。
ヴァナキュラー家具とは、宮廷や大都市の流行だけを追って作られた家具ではなく、地域の暮らしの中で使うために作られた実用家具を指します。
そこでは、オーク、エルム、アッシュ、ビーチなどとともに、その土地で入手できるフルーツウッドも利用されました。
英国を代表する民衆家具の一つ、ウィンザーチェアにもその例があります。
18世紀のウィンザーチェアでは、アッシュ、ビーチ、エルム、イチイなどが一般的ですが、フルーツウッドが使われる例も確認されています。
実際に1740年頃のジョージ2世期に作られたフルーツウッド製ウィンザーアームチェアや、18世紀末のフルーツウッドとエルムを組み合わせたウィンザーチェアが残されているそうです。
ここで面白いのが、家具全体を一種類の木だけで作るとは限らないことです。
座面にはエルム。
脚にはアッシュ。
背もたれにはフルーツウッド。
というように、それぞれの部位に適した木材を組み合わせる家具もありました。
当時の職人にとって重要だったのは、木材の名前を統一することより、
「その場所に適した木を使うこと」
だったのでしょう。

高級家具にも、素朴な家具にも使われた木
ここまで見ると、フルーツウッドには面白い二面性があることが分かります。
一方では、地方の暮らしの中で手に入る木材として、椅子やテーブル、アルモワールなどの日常家具に使われました。
しかしもう一方では、細かな木肌を生かして高級家具の象嵌や化粧材にも使われています。
例えば18世紀のジョージアン家具では、マホガニーなどの主材にフルーツウッドの象嵌を施した作品も存在します。1780年頃のジョージ3世期のアームチェアにも、マホガニーへフルーツウッドによる象嵌が使われた例があります。
さらに17世紀フランスの高級家具では、フルーツウッドが象嵌やベニヤとして使われた作例も残っています。
つまり、
「フルーツウッド=素朴な安価材」
という単純な理解ではありません。
同じ果樹材でも、家具の構造材として使われる場合もあれば、美しい色や細かな木質を生かし、装飾のために使われる場合もあるのです。

身近な果樹が、100年を超える家具になる
フルーツウッドの面白さは、その名前の親しみやすさにあります。
ナシ。
リンゴ。
チェリー。
サクランボ。
私たちが普段食べている果物を実らせる木が、かつて家具職人の手に渡り、椅子やテーブル、キャビネットへ姿を変えました。
遠い国から運ばれたマホガニーやローズウッドのような華やかな物語とは少し違います。
庭や農園、村の近くで育っていた木を使い、その土地で必要とされる家具を作る。
そこには、ヨーロッパの地域ごとの暮らしが色濃く残っています。
一方で、その緻密な木質を生かして象嵌を作り、黒く染めてエボニーを表現するなど、職人たちはフルーツウッドを実に巧みに使いこなしました。
素朴なカントリーチェアにもなる。
優雅なフランス家具にもなる。
高級家具の象嵌にもなる。
黒檀を思わせる漆黒の装飾にもなる。
「フルーツウッド」という一つの言葉の中に、これほど幅広い家具文化が隠れています。
アンティーク家具をご覧になる際に「Fruitwood」という素材名を見つけたら、
「何の木だろう?」
と、ぜひ少し立ち止まってみてください。
木目や色、家具が作られた国や地域、年代を辿っていけば、その家具が生まれた土地の風景まで見えてくるかもしれません。
今回のお話で出てきたキーワードの商品をまとめてみました。是非ご覧ください!
しかし2026年8月時点ではフルーツウッドに該当する商品は在庫していません。
その為本筋ではない商品ではありますがご紹介いたします。
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